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一命


井伊家で切腹を願い出た二人の武士
その目的とは!?
それは命を賭けて守る価値があるのか!!


今回は市川海老蔵・主演の話題の時代劇新作の「一命」です。
監督は三池崇史。共演に瑛太、満島ひかり、役所公司。
1962年に公開された小林正樹監督の名作「切腹」のリメイクです。






今回のリメイク作品は、“家族愛”をプラスした武士道の面目を一命を賭けて問うというものです。
新作映画なので、ラストのネタバレこそしませんが、かなりのネタバレを含んでいますので、これから見る方はご注意下さい。
あの市川海老蔵の六本木での殴打事件の影響で公開が遅れてしまった作品ですが、見応えのある時代劇になっています。
それでは、興味のある方は下の追記を読む、からご覧下さい。
2011年10月15日公開
監督 - 三池崇史
原作 - 滝口康彦『異聞浪人記』
脚本 - 山岸きくみ
音楽 - 坂本龍一
エグゼクティブプロデューサー - 中沢敏明、ジェレミー・トーマス
撮影 - 北信康
衣裳デザイン - 黒澤和子
殺陣 - 辻井啓伺
制作 - セディックインターナショナル
制作協力 - オー・エル・エム、楽映舎
配給 - 松竹
製作 - 2011映画「一命」製作委員会
セディックインターナショナル、電通、松竹、講談社、オー・エル・エム、Recorded Picture Company、山梨日日新聞、山梨放送、アミューズソフトエンタテインメント、Yahoo! JAPAN、朝日新聞社
CAST
津雲半四郎(つくも はんしろう) - 市川海老蔵
千々岩求女(ちぢいわ もとめ)- 瑛太
美穂- 満島ひかり
田尻- 竹中直人
沢潟彦九郎(おもだか ひこくろう) - 青木崇高
松崎隼人正(まつざき はやとのしょう) - 新井浩文
川辺右馬助(かわべ うまのすけ) - 波岡一喜
佐々木 - 天野義久
和尚 - 大門伍朗
井伊掃部頭直孝 - 平岳大
宗祐(そうすけ) - 笹野高史
千々岩甚内(ちぢいわ じんない) - 中村梅雀
斎藤勧解由(さいとう かげゆ) - 役所広司
2時間6分 シネマスコープサイズ
●予告編
ストーリー
大阪夏の陣で豊臣家が滅んで数年後の1630年(寛永7年)5月13日、津雲半四郎なる浪人が徳川譜代の井伊家の江戸屋敷に訪ねてきました。
その浪人・津雲半四郎はもとは芸州・広島の福島左衛門太夫正則の家臣でした。
福島正則は、かつては豊臣秀吉の子飼の猛将でしたが、広島城の改築を幕府に無断で行った武家諸法度違反で責められ、二代将軍・秀忠の命によって改易させられたのでした。
津雲なる浪人の来訪に、井伊家の大老・斎藤勧解由は、うんざりしていました。その浪人の目的は薄々判っていましたが、一応用向きを聞いた上で斎藤勧解由は、その浪人に引き取ってもらおうと会いました。
井伊家の屋敷奥に通され、大老・斎藤勧解由に面会した津雲半四郎は自らの素性を明かします。
その上で、生活が苦しく仕官の道も困難で、このまま生き恥を晒したくないので、武士らしく切腹したいので井伊家の庭先を貸してほしいと申し出ました。
井伊家に切腹を申し出た者は、その津雲半四郎が初めてではありませんでした。つい先ほども津雲半四郎よりも若い千々岩求女(ちぢいわ もとめ)なる若い浪人が井伊家を訪ねて来ていたのです。
大阪夏の陣以来、江戸の町も主家を失った浪人で溢れっていました。
その生活に困窮した浪人が武家の庭先で切腹したいと訪ねて来て、大名屋敷側が迷惑なので引き取ってもらう為に金銭を渡す“狂言切腹”がにわかに流行っていたのです。
斎藤勧解由も先ほどの千々岩求女一件で、それは懲りていますから、何とか引き払ってもらおうと津雲半四郎にその時のことの一部始終を話し始めました。
斉藤 今年の秋口のことであったが、千々岩求女と申す浪人が当家を訪ねて参った。そこもとと同じ用件でな。
津雲 ほう。
斉藤 お話申そうか。そのときのいきさつ。
津雲 承りましょう。
そして、井伊家老中の斎藤勧解由から千々岩求女の切腹の様子が語り始めます。
千々岩求女は生活に窮したのか武士の魂でもある刀を質に入れて、持参した刀は竹光でした。
求女の目的は金銭目当ての狂言切腹でしたが、井伊家ではそれに応じず、庭先で求女に切腹させたのでした。
それも刀ではなく、求女が持参した竹光で・・・
津雲半四郎の目的は、その千々岩求女の最期の様子を知ることでした。
それを知った津雲半四郎は、井伊家の庭先で切腹の支度をされ、井伊家の家臣団に今度は驚愕の話を語っていきます。
津雲が懐から差し出したものに、井伊家の家臣たち一気に殺気立ち、壮絶な闘いが始まっていくのでした・・
ストーリーの紹介は以上です。
これからネタバレに関することが出てきますので、まだ未見の方はなるべく見ない方がいいかもしれません。
主人公・津雲半四郎は井伊家で切腹する気などさらさらなく、最大の目的は井伊家への復讐です。
切腹させられた千々岩求女は、津雲半四郎にとって娘・美穂の夫です。
二人は、改易された福島家でも同僚の武士で、娘・美穂を千々岩求女に嫁にもらってくれと娶らせたのも津雲です。
瑛太演じる千々岩求女は竹光で切腹させられたのです。もとより、そんな模造刀では腹など切れるはずもありません。
求女は竹光の端を折って、ささくれたとがった木の破片で自分の体重をかけて無理やり腹を突いているのです。
そんな玩具のような刀では腹を裂くなどは不可能です。すぐでも介錯するのが、武士の情けなのですが、この映画で出てくる井伊家の介錯人はそれを嘲るように見ていただけです。
苦しみうめく求女を見兼ねて、老中の斎藤勧解由が介錯しますけどね。
求女はただ生活に窮したというだけでなく、妻が結核になって、その薬を買う三両を得たかったわけです。
その事情も井伊家に明かしますが、まるで取り合ってはくれません。
この映画で描かれる武士の体面というものですが、そこには武士の情けが微塵もないということです。
主家が改易されて武士が職を失う。これは徳川時代によくあったことですが、何も外様大名だけではありません。
福島家改易の後すぐに、徳川家康の腹心でもあった本多正信の後を継いだ本多正純も二代将軍・秀忠の逆鱗に触れて幽閉させられ、本多家も没落しています。
外様大名ならいざ知らず、古くからの徳川譜代大名が処分されたのですから、当時としても衝撃が走ったでしよう。
言ってみれば、いつの世にも“明日は我が身”なのです。
人ごとだと思って聞いていたことが、やがては自分の身にも降りかかるは、よくあることなのですから。
日本の時代劇で描かれる武士道の非道ですが、この作品に関しては尋常ではないですね。
切れもしない竹光で切腹させるというものなのですから・・・
切腹なんて、元々は腹を切るというのは武士の面目を保つものとされていて、すぐに介錯するものなのですが、この作品の井伊家の介錯人はわざと苦しませて、介錯しようとはしません。
1962年の小林正樹の「切腹」でも、そのシーンは見ていてゾッとしました。前作はモノクロのシネマスコープでした。
見たのは昔の池袋の文芸坐です。それを見たのは25年以上前で、小林正樹監督特集のオールナイトでした。
その時は・・・
「怪談」1962年カラー作品
「切腹」1962年モノクロ
「いのちぼうにふろう」1971年モノクロ
の三本立てでした。「切腹」、「怪談」まではすごく面白く見れたのですが、「いのちぼうにふろう」はつまらなく感じて、ロビーで休憩しましたね。
前作の「切腹」の仲代達矢は迫力ハンパなかったです。その構えからして、歴戦の剣豪という感じでした。
リメイク本作の市川海老蔵も悪くはないんですけどね・・・
やっぱりまだ若いなあと感じましたね。
調べてみたら、前作の「切腹」の仲代達矢は当時は30歳で主役の津雲半四郎をやっているのですね。
新作リメイクの市川海老蔵は33歳で演じていますから、海老蔵の方が演じた年齢は上ということになります。
それでも、仲代達矢の方が年取って見えるということは、役者としての迫力の差でしょうね。
いかに歌舞伎役者のホープといえども、この映画に関しては市川海老蔵の役者としての発展途上は否めなかったですね。
殺陣の面でもね・・・でも、仲代達矢と比較するのはかわいそうかなあ。
リメイク作品は、どうしても前作と比べてしまうのは、“宿命”みたいなものです。
前作が1962年と丁度50年経っていますから、前作を見ていない人もいるでしようけどね・・・
前作を知っている者としては、やはりどうしても比較してしまいますし、不満みたいなものも出てきます。
今回のリメイク作は、殺陣のダイナミリズムもラストで見せてくれます。
ただ、今回は求女の竹光切腹に立ち会った意地の悪い三人衆は、三人同時に簡単に片ずけられてしまいます。
それは求女の切腹を嘲り見ていた井伊家の三悪人たちです。その中で介錯を任されながら、介錯しなかった沢潟(おもだか)彦九郎が、一番武士の情けがない悪侍です。
前作「切腹」は仲代・津雲と丹波・沢潟彦九郎との一対一の息詰まる決闘が伏線として出てきました。
リメイク新作では、そこを簡略化してしまっています。そこが、本作の拍子抜けなところになりましたね。
赤備えで知られる井伊家の手だれの者が、三人同時にやられてしまうとは余りにも弱過ぎます。
その者たちは大阪の陣にも参戦している筈で、そんな豪の者たちが簡単にひねられちゃ・・
“ホントにこいつら強い侍なの?”と疑いたくなりました。
前作の、仲代達矢VS丹波哲郎は、文字通りの死闘でしたからね。
「切腹」でのその対決シーンの撮影では真剣での殺陣だったそうです。よく事故が起きませんでしたね。
そんな井伊家手だけ三人衆を一度に片ずられるのだから、ラストの井伊家と津山半四郎の斬り合いも、もう少し引っ張っても良かった気がします。
まあ、そこは生活に窮した武士故のアイテムが・・・という落ちもあるんですけどね。
家族愛を描いた分、殺陣アクションシーンが、意外とあっけないものになったように気がします。
前作と比べてしまうと、どうしても不満はありますが、それでもそれなりに見応えはありました。
三池崇史監督の「十三人の刺客」は、過去の前作を越えたけど、今回は越えられなかったですね。
武士の体面=男の体面のような気がします。
武士の面目にこだわって武士を捨てられなかった、市川海老蔵の“最後の後悔”が、ズシンと心に響いてくるものがありました。
評価は低い本作ですが、見ておきたい映画であることには間違いないです。

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